布団屋とあたくし(リサイクル)

◎あらすじ
夜の十時にセールスマンが来訪。
「布団のクリーニングに来ました。小一時間もあれば終わります。一式で千円です」
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気を許して部屋に上げ、布団を見てもらったら、
「あーあ、もうカビだらけでクリーニングしてもムダです。しかも綿がくたびれてて、こんなんで水洗いしたらボロボロになりますよ。買い換えましょ」
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「見るだけでいいですから」と西川の布団一式を持ち込み、勝手に玄関を閉める
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地獄絵図
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気が付いたら、使い慣れていた布団は部屋から消え、代わりに西川の最高級布団と十三万円のローン契約書の写し、
そして、
「セールスマンは用件を偽って訪問もしなければ、恫喝まがいのこともしませんでした」
という、なんか事実とちょっぴり違う内容の「確認書」の写しが手元に。


あらすじ終わり。
あーあ、大馬鹿野郎ですねえ。私。
「非常識な時間にアポ無しで来訪」
「布団のクリーニング(しかも水洗い)が小一時間で終わるなどという、常識で考えてあり得ない大ボラ」
この時点ですでに怪しかったんですけどねえ。
しかし「何か変な流れになったらすぐに追い返せる」などと高をくくっていたのも事実。
甘かったです。かきみーら(byトリコロ)並みに甘すぎました。


布団一式を持ち込み、商品の素晴らしさを延々語りまくる。それから実際に布団に触らせた上で問う。
敵「こんな布団で寝たいとは思いませんか?」
私「ああ、買えるものなら買いたいですねえ」
敵「『買いたいですねえ』ですか? 布団はあなたの目の前にあるんですよ? なぜそこで『買う』と言わないんですか!!
それから勝手に電卓を取り出して、「私の権限で特別に割り引きしますから」と恩着せがましく言いつつ、費用の見積もりをやってみせる。
私「おたくの製品の素晴らしさはよくわかりました。検討したいと思いますので、パンフレットか何か頂きたいのですが……」
と、至極まっとうな事を言って話を切り上げようとしても、相手は聞き入れない。
敵「一体何を検討するんですか! 現物がここにあるんですよ? これ以上何を検討する余地があるんですか!
「ですから、他の製品と比較して……」
敵「比較ってどうやって比較するんですか? 布団屋にでも行って触って比較するんですか? 素人のあなたがそんな事したところでわかるわけがない! いや、それ以前に、あなたは布団屋なんか絶対に行きませんね。断言しますよ
さらには金銭感覚の押しつけまで始まる。部屋の奥にあるPS2を見つけるや否や、
敵「ゲームするんですか? 収入のうちのいくらかがローンで持って行かれるような状況になれば、ゲームを買うなんていう無駄遣いも無くなりますよ」
こうして何が何でも「買え」と迫ってくる敵を相手に、どんどん精神的に追いつめられていく私。相手の言ってる事がムチャクチャだってわかっていても「それがどうした」の世界です。
こちらのサイトの管理人様の言葉が身にしみます。

訪問販売の営業マンは買ってもらう目的でインターホンを押しているのではありません。全知全能を傾けて、買わせるためにインターホンを押しているんです。

そして、一時間近いバトルの結果は前述のとおり。


改めて上記のコラムを読んだのですが、まさに地獄のような仕事ですね。
この会社の求人広告を見たところ、学歴職歴年齢不問で初任給三十万とのこと。そんな好待遇の代償がこれなのかと。私だったら一日で「ママ〜〜〜〜!」と絶叫しながらしょんべんチビって逃げますよ。
でもね、血ヘド吐くような思いして相手に商品押し売っても、クーリングオフされたらそれでお終いなんですよね。かわいそうですよ。本当に。
もちろん、私は速攻でクーリングオフしましたが。(※)


布団回収に来たのはその時のセールスマンで、延々と恨みごと並べ立ててました。
「女ならともかく、男と男の約束でしょうに……ブツブツ…… 嫌ならはじめから契約しなきゃいいのに、こんな二度手間かけさせて……ブツブツ…… せっかく六万も値引きしたのに、普通の人間ならこんなこと考えませんよ……ブツブツ」
実は私、結構罪悪感を覚えてまして、せめてものお詫びの印に菓子折を買っていました。ナビスコのデリートっていうクッキー。
しかし、ツッコミどころ満載のセリフを敵が連発する中、こいつを渡すかどうかが微妙になってきたところで、前の布団を持ち込みつつトドメの一言。


「はい、カビ布団返しますよ! これからも頑張ってカビ広げてくださいな!」バタン!


ああ。地獄に生きる彼らにとって、クーリングオフなど究極の背信行為なのでしょうね。地獄に仏と蜘蛛の糸を上っていったら、いきなりハサミでちょん切られたようなものなのでしょうね。そりゃ暴言浴びせたくなるのも人情ってもんです。
ま、クッキーは私の胃袋に収まりましたが。すげー美味かった。


(※)
「訪問販売法」で定められていることですが、訪問販売の場合、契約から八日以内なら無条件でクーリングオフできます。
しかし、たとえ契約から八日間のクーリングオフ期間を過ぎていても、業者が「用件や身分を偽っての訪問」や「恫喝・脅迫まがいの行為」など、明らかに不当な手段を使っていた場合には、クーリングオフ可能になることがあります。
冒頭で触れた「確認書」は、これへの対策だと思われます。


(追記)
彼らの名誉のためというわけではありませんが、知人にツッコミ入れられたので。


十三万(ローン手数料込み)という値段は、決してボッタクリではありません。
契約の翌日、京都西川本社に電話して問い合わせてみたのですが、担当者様の回答によると、


>最高級品であることを考えればこの値段は適正であり、むしろ十三万というのは破格の安さである


とのことでした。
西川本社もその業者のことを認めていて、担当の営業マンもいるそうです。西川が認めているということは、ちゃんとした、マトモな会社であるということでしょう。
私は、件の業者を西川の名を騙る悪徳会社だと決めつけていましたが、ここにいたって、自分の無知と思いこみを反省したものです。


しかし、いくらお買い得と言っても、私にとって贅沢品であることには変わりなく、少なくとも十三万という金を払う価値は見いだせませんでした。
「こんなお買い得な高級布団を、強引にでも売りつけてくれてありがとう」と感謝する人も多いのでしょう。それは認めます。
ただ、私はそうは思わなかった。解約する理由としてはそれだけで十分です。